Beranda / 現実ファンタジー / 黒の騎士と三原色の少女たち / 第1話 契約――コントラクト――

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第1話 契約――コントラクト――

Penulis: スナオ
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-13 14:21:44

 四方院家の圧力により、救急隊員は何も言わず赤木家の負傷者たちを運んでいった。また警察にも手を回したため、少女が逮捕されることもなかった。一息ついた桜夜は他人の家の台所で勝手にホットココアを入れると、少女を待たせている応接室に向かい、器用にドアを開けた。

「おや、逃げなかったのか」

 応接室の3人がけのソファーのはじっこにちょこんと座った少女の小柄な姿に、桜夜は少しだけ驚いてみせた。彼は少女をいっさい拘束しなかったし、施錠などもしていなかった、逃げ出すチャンスはいくらでもあったのに、少女は逃げずに彼を待ったのだ。

「たすけて、って、言った、から」

 少女は少し怯えながらそう返した。桜夜はふむ、と頷きながら彼女の前にココアをおいた。

「まあ疲れただろうし、飲みなさいな。飲みながら話しましょう」

 彼は早速自分の分のココアに口をつける。そして「あちち」と熱がるそぶりを見せた。彼は生来の猫舌だった。その姿を少しだけかわいいと思った少女は小さく口元に笑みをたたえ、自分のココアをふーふーと冷ますと一口飲んだ。

「……あー、飲むんだ」

 少女は不思議そうに首をかしげる。

「僕はまだ君の味方じゃない、どちらかというと敵側だ。敵の出した飲み物なんて僕は恐ろしくて飲めない。君、戦闘のプロじゃないね」

 桜夜の指摘に少女はうつむき、ココアの入ったカップを机に置いた。

「でも安心したよ。君がそっちのプロじゃないなら、無理矢理戦いに利用されたいたいけな少女を助けたってシナリオが書ける」

 桜夜の言葉に少女は顔をあげる。

 桜夜は天使のように――あるいは悪魔のように――笑っていた。

「たすけて、くれるの?」

「もちろん。それが四方院家のためなら、ね」

「ありがとう!」

少女はソファーから立ち上がり、桜夜の手を握った。

「で、君のご依頼は?」

「……わたしと、2人の妹を助けてほしいの」

「ふむ……それは構わないが、君は“あの女”の娘なんだろう。助けたとしても僕は君、たちを一生守らないといけない。何かメリットはあるのかな?」

 桜夜は少女を見る。華奢な身体と小柄な背丈、恐らく栄養状態もあまりよくない……かつての自分のように。彼の中のかけらほどの良心はどこか静かな場所で平和に暮らさせてやりたいと騒いでいた。だがそれは無理だ。相手はあの女、“不死身の魔女”なのだ。護衛をつけるにしろ最高峰の護衛でなければ守りきれない。

 今彼に用意できるプランは2つ、四方院本邸に匿うか、彼自身が少女たちを手元に置くかだ。前者は魔女と四方院の全面戦争を繰り返し発生させかねず、四方院家の害になる。ならば後者しかない。しかし後者でも少女は普通には暮らせない。だから彼女の覚悟がいかほどか試す必要があった。

「わたし、あなたにあげられるもの、ない……」

 少女はうつむき、握った拳を震わせた。しかしすぐに顔をあげた。

「わたし……わたしをあげる! わたしがあなたの盾に、道具になるから、だから、妹たちをたすけて!」

 その言葉に桜夜はにやりと笑う。手ごまは多いに越したことは無い。お人よしで助けるのではないと、彼は自分に言い聞かせた。

「……良い根性だ」

 それだけの覚悟あるなら大丈夫だろう。そしては桜夜は少女の顎を掴み軽く上を向かせ、その唇を奪った。瞬間時が止まり、少女は固まった。

「……これで契約成立だ。助けてやるよお前の妹……ってどうした?」

 そこで桜夜は少女が固まっていることに気づいた。彼女は不意に真っ赤になり、ソファに倒れこんだ。

「……わたし……ハジメテ……」

 少女が「サイカ」という自分の名前を名乗ったのは、ファーストキスを奪われてからしばらく経ってからだった。

to be continued

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     倒れた少女がそのまま寝てしまったことに、本当に戦闘向きじゃないなあと思った。敵陣で、かつ、無理矢理唇を奪った男の前で無防備すぎないか?と思ったが、桜夜は嘆息をつき、適当な部屋から毛布をもってきて少女にかけると、暖房の温度をあげた。「さて、と」 だんだんと強い“力”が2つ、屋敷に近づいて来ていた。その力は明らかな敵意に満ちている。迎え打つために、脱いでいた防寒用のマントを再び羽織ると、腰のベルトに桜吹雪を差し、表に出た。すると炎の固まりがいきなり彼に突進してきた。「サイカを、返せ!」 炎の固まりの中にはサイカをボーイッシュにして、髪と瞳を赤にし、さらに筋肉質にしたような少女がいた。少女は炎を纏って桜夜に殴りかかってきた。「っ」 なかなかの俊敏さに驚異を感じながらも桜吹雪を鞘ごと引き抜き、拳を受け止める。しばらくつばぜり合いを続けていたが、炎の少女の後ろから静かな、しかし強い声が響いた。「離れなさいホムラ」 その声に炎の少女は桜吹雪の鞘を蹴って空に飛び上がった。そのあと桜夜に向かってきたのは屋敷を飲み込まんばかりの津波だった。「ちっ」 サイカを助けに来たとか言いながら、彼女のいるかもしれない屋敷を流す気かと内心で毒づきながら、桜吹雪を鞘から抜く。桜吹雪で津波に切りかかると、津波はモーセの海割りの如く半分に切り裂かれ、力を失って消滅した。「なんだよ、その剣!」「剣じゃなくて刀だよ」 炎の少女、ホムラが投げつけてくるファイアボールを切り裂きながら、桜夜はのんきに突っ込みを入れた。すると今度は正面から鉄砲水のような水が勢いよく向かってきて、仕方なく桜夜は桜吹雪の刃で水を受け止める。しかしその放水はなかなか終わらず防戦一方だった。「とりあえずてめえは死ね」 ホムラが先ほどとは比べものにならない大きさのファイアボールをかかげて空中で笑っていた。(あれを投げつけられたやばいかもなあ) なんて思いながら、桜夜の目付きが変わった。ホムラという少女がファイアボールを投げ、無防備になった瞬間、彼女を殺そうと決めたからだ。殺るか殺られるかの瞬間、悲鳴のような声が戦場に響いた。「やめなさい! ホムラ! リオ! この人は味方よ!」「……ねえちゃん?」「サイカちゃん?」 ファイアボールと鉄砲水が消え、サイカとよく似た二人の少女が、屋敷から飛び出してき

  • 黒の騎士と三原色の少女たち   第1話 契約――コントラクト――

     四方院家の圧力により、救急隊員は何も言わず赤木家の負傷者たちを運んでいった。また警察にも手を回したため、少女が逮捕されることもなかった。一息ついた桜夜は他人の家の台所で勝手にホットココアを入れると、少女を待たせている応接室に向かい、器用にドアを開けた。「おや、逃げなかったのか」 応接室の3人がけのソファーのはじっこにちょこんと座った少女の小柄な姿に、桜夜は少しだけ驚いてみせた。彼は少女をいっさい拘束しなかったし、施錠などもしていなかった、逃げ出すチャンスはいくらでもあったのに、少女は逃げずに彼を待ったのだ。「たすけて、って、言った、から」 少女は少し怯えながらそう返した。桜夜はふむ、と頷きながら彼女の前にココアをおいた。「まあ疲れただろうし、飲みなさいな。飲みながら話しましょう」 彼は早速自分の分のココアに口をつける。そして「あちち」と熱がるそぶりを見せた。彼は生来の猫舌だった。その姿を少しだけかわいいと思った少女は小さく口元に笑みをたたえ、自分のココアをふーふーと冷ますと一口飲んだ。「……あー、飲むんだ」 少女は不思議そうに首をかしげる。「僕はまだ君の味方じゃない、どちらかというと敵側だ。敵の出した飲み物なんて僕は恐ろしくて飲めない。君、戦闘のプロじゃないね」 桜夜の指摘に少女はうつむき、ココアの入ったカップを机に置いた。「でも安心したよ。君がそっちのプロじゃないなら、無理矢理戦いに利用されたいたいけな少女を助けたってシナリオが書ける」 桜夜の言葉に少女は顔をあげる。 桜夜は天使のように――あるいは悪魔のように――笑っていた。「たすけて、くれるの?」「もちろん。それが四方院家のためなら、ね」「ありがとう!」少女はソファーから立ち上がり、桜夜の手を握った。「で、君のご依頼は?」「……わたしと、2人の妹を助けてほしいの」「ふむ……それは構わないが、君は“あの女”の娘なんだろう。助けたとしても僕は君、たちを一生守らないといけない。何かメリットはあるのかな?」 桜夜は少女を見る。華奢な身体と小柄な背丈、恐らく栄養状態もあまりよくない……かつての自分のように。彼の中のかけらほどの良心はどこか静かな場所で平和に暮らさせてやりたいと騒いでいた。だがそれは無理だ。相手はあの女、“不死身の魔女”なのだ。護衛をつけるにしろ最高峰の護衛でな

  • 黒の騎士と三原色の少女たち   第1章 不死身の魔女 プロローグ「イカズチ」の少女

     東北自動車道を走る車の助手席から、青年、水希桜夜(みずきおうや)は窓の外を眺めていた。彼は黒いスーツの上下に黒いワイシャツ、そして寒さ対策のフード付きの黒いマント身につけていた。胸には公式任務中を示す「四方印」のバッジが輝いている。「しかし東北でのゴタゴタに、なんで関東の僕が駆け付けなければならんのかねえ」 桜夜はため息をつく。すると運転手が苦笑いを浮かべながら答えた。「相談役は日本中のトラブルに対応する仕事ですよ」 桜夜はもう一度ため息をつく。「四方院家特別相談役」、それが彼の役職だった。特別相談役は四方院家宗主直属の役職で、宗主クラスでなければ対応できない荒事に対応したり、時に四方院家を守るためなら宗主に背くことも許された地位である。といえば聞こえはいいが、ようはただの雑用である。青年はもう一度ため息をつく。 親もなく、幼い頃に宗主の妹に才能を見いだされただけの野良犬にはお似合いの仕事だなと思ったからだ。そうして桜夜は目蓋を閉じて瞑想に入る。何か、変化の兆しを感じていた。◆◆◆ 桜夜が青森にある四方院家の分家、赤木家の屋敷についたのは深夜1時を回ったところだった。屋敷には明かりもなく、多くの人間が倒れていた。桜夜が倒れている人間に近づいて確認したところ、どうやら息はあるようだ。運転手に救急車の手配を任せると、青年は鞘に封印された刀――桜吹雪――を手に赤木家当主の姿を探した。 しばらく歩き回り、そして屋敷の奥に当主はいた。苦しそうに身体を横たえる当主の前には、バチバチとイカズチをまとった少女がいた。黄色い髪は首にかかるかかからないか程度だ。黄色いローブに身を包み、杖を持った姿はまさに魔法使いだった。「おーい、お嬢ちゃん。そのおっさん返してくれる?」 桜夜はのんきに魔法使いに声をかけた。すると彼女は彼の方に目を向けた。黄色い瞳は悲しそうだった。「……四方院の、秘密を教えて。そうしたら帰る」「秘密、ねえ? 宗主があまりにチビだから未だに嫁が来ない話でいいか?」 桜夜のふざけた態度に、魔法使いは左手の掌を青年に向け、「イカズチ」を放った。「おっと」 桜夜は鞘に入ったままの桜吹雪でイカズチを受け止める。すると桜吹雪の持つ「守りの結界」が発動し、イカズチが少女に跳ね返った。「きゃっ……」 イカズチが跳ね返されたことに、少女が驚いた。その

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